―わがままだって。君だって。さよならだって。







あたり一面は、全ての命を眠らせる銀世界。
それでもだんだんと暖かくなり、春の訪れを感じられる。
沢山の妖精が、冷たい白にまみれて暖かい笑顔を作っている。
雪玉を当てられてむきになる妖精の声。
雪だるまを作り終えた、嬉しそうな声。
その声の中に、二人の少女の声もあった。
「いっくよー!」
その少女は、大きく振りあげた右手の中の雪玉を、目の前の少女に投げた。
目と鼻の距離だ、もちろん命中した。
「きゃっ! やったな〜」
当てられた少女は、目の前の少女を押し倒した。
冷たい雪が、黄色い髪に染み込んでゆく。
「あははははっ」
「もう。ココちゃん、冷たいよ〜」
ココと呼ばれた少女は、雪と同じ真っ白な髪を躍らせながら立ち上がった。横の黄色いワンピースの少女が、それに続いて立ち上がる。
ココが、同じようにワンピースについた雪を落としている少女に言う。
「ごめんごめん」
にっこりと笑うと、黄色い少女も笑った。
「じゃあポポちゃん、雪だるま作ろ!」
ココが言うと、
「うんっ」
黄色い少女―ポポは、また笑った。

太陽が、銀世界を溶かしていく。
まるで、美しいものは必ず醜く消えるのだと言うように。
もう雪が少なくなってきたころ、ココとポポは雪だるまを何とか完成させた。
雪が少なかったせいで、頭が少し奇妙な形をしている。
こわっ。
「うわぁ、頭が変になっちゃった」
ポポが少し後ずさりする。
その雪だるまの顔は、おとぎ話にでも出てきそうな生き物を連想させる。
体が綺麗なのが、余計に奇妙さを際立たせていた。
どうやら、体を作るのに力を入れすぎたらしい。
「これ怖いね…」
ココも苦笑いしながらあとずさる。
「でも……二人で作ったんだよね」
その言葉には、やけに重みがあった。
それは、ココがある大きなモノを抱えていたから。
「次は……一人で作れればいいな」
「ココちゃん…」
ココは、しゃがんでしまった。
ポポはココの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ、ココちゃん。私が一緒にいるから…」
「でも…私、一人でいろんな事してみたいよ…」
と言い終わるや否や、ココはひどく咳きこみだした。
顔色がどんどん悪くなり、瞳の輝きもだんだん曇っていく。
ポポは慌てて背中をさすり、ココを支える。
だが、ココの息はだんだんと小さく、虫のようになっていく。
「…誰かっ」
あたりを見回すが、そこには誰もいない。どうやら雪だるまを作っていた間、結構時間が流れていたらしい。みんな帰ったのだろう。
沈み始めた太陽が明るく照らし、それを見せつける。
「がんばって、ココちゃんっ」
「ポ…ポちゃ……ん…」
ポポは必死の形相で半透明の大きな翼を広げ、ココを抱きかかえた。
羽根が、銀の衣を溶かされた土へと舞い落ちる。
とほぼ同時に、ポポは全身に力を入れて舞い上がった。
私がやらなきゃ…ココちゃんが死んじゃう。
飛ぶんだ!
ポポは精一杯飛ぶが、それでも少女が力の抜けた肉体を持ちあげるのは困難だった。
まして飛ぶなど、無理に等しい。
だが、この苦しそうな少女を救うには、飛ぶしかない。
こんな時こそ、超えられるのかもしれない。
限界を。

だから、ポポは自分に喝を入れて精一杯に翼を動かした。
一つ、また一つと進むたび、大きな音がする。
ココの息は、その音のせいなのか、もう聞こえない。
それによる焦りが、ポポに力をくれた。





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